「小説・きんもくせいが香る頃」より
【私の中のやくざたち列伝】エントリーナンバー1 田島剛三
この男、田島剛三と申しまして。
チンピラ稼業をしていた新宿から故郷へ戻り、
いよいよ本格的な極道の道を歩み出した男でございます。
着流し姿で、晒を巻き、いかにも昭和のやくざらしい風体。
ただし、いかんせん酒癖――いや、悪酒がすぎた。
酒が入ると着火が早い。
そして、ある晩。
ご自慢の日本刀を持ち出し、
妻が経営する店で、ご近所の旦那衆に、気分よく日本刀講習会。
本人としては、おそらく、自慢の日本刀、
きらりと光るその刃先をみせたかったのえしょう。
ところが、その数時間後。
お供をしていた子分がキレて、ご自慢の日本刀で斬り殺されてしまったのでございます。昨日今日、寄り付いたばかりの子分だったらしく、そんな浅い関係の相手をたまたま、お供にしたのも珍しいことでございました。
切り殺されるとは、なにか因果でもあったのでございましょうか。
そして、飲み屋が並ぶ路地裏で倒れ、冷たい雨の中、
そのまま命を落としてしまったのでございます。
ほんとうに映画のワンシーンのような出来事でございます。
刀を振り上げた、この若い子分が、出所後、人生をどう生きたかは誰も知る由もございません。「やったらやりかえす」なんて、年がら年中、すごみをきかせまくって、バッファローのようにかけこんで仇をとる高倉健も松方弘樹も、ほぼ実在しませんから……。
酒が身を持ち崩す……とは、昔から申しますが、この方の場合は身を持ち崩すどころではございませんね。
命まで失ってしまいました。
何ともまあ、あっけなく、そして因果な最期でございます。
威勢がよくて、喧嘩っ早くて、酒が入れば面倒なおっさんになり、結局、極妻が怒鳴りつけて家に帰すのが常であったようでございます。
この晩も、若い衆を怒鳴りつけた、そのいきさつをどや顔で語っていた田島。父に窘められたばかりでございました。
「そんなに、わけもなく当たり散らしていたら、しまいにゃ、おまえ、自分の若い衆に背中からやられるぞ」
やられました。
冗談が現実になってしまった例。
父とは、竹馬の友。
いわゆる幼馴染みのわんぱく仲間でございました。
最後には自分の性分が、自分自身へと返ってくる。
これは、まぎれもなくこの世の因果の法則でございます。
田島剛三という男を思い出すと、
私はどうしても最後にこの一言をつけたくなります。
酒は、ほどほどに。
しかし、なにも殺さなくても・・・とは思いますけど。
いきなり、ハードボイルドなところからエントリー。
序列、この頃は、第一位(その前にふたりいた)だったので、一番目に挙げてみた次第。
天井の明かりにかざされた、きらりと光る日本刀は、本当に美しかった。
素直に子供心にそう感じたものだった。
「田島のおじちゃん、そんなによく切れるなら、さっき、焼き芋屋さんから買ってきた焼き芋切ってみて!もってくるね!」
台所から焼き芋をもってきた時には、田島のおじちゃんは、にこにこと笑いながら、「おじちゃんが綺麗に皮剥いてやろう、どれどれ…」
ということで、
きらりと光る自慢の日本刀で、焼き芋を、スパッと切る妙技はみられなかった。
金歯がきらりと光る口元、ドスの利いたしゃがれ声で私の顔を覗き込み、優しい言葉をかけてくる、60年以上も前のあの姿。いまでも時折、思い出す。
連想しやすいようにあえて、俳優さんに喩えるならば、「仁義なき戦い」に出演していた松方弘樹さん。あの役のあの雰囲気に近いかもしれない。
そして、時代も、実は、あの頃にかぶってる。
※本記事に登場する人物名・団体名は仮名または創作上の名称です。実在の人物・団体とは関係ありません。内容は、実際に見聞きした出来事をもとにしていますが、一部再構成した部分も時折あります。
エントリーナンバー1から、いきなりハードボイルドな、『皆さんの連想を裏切らない眉を顰める記事内容』になったかもしれませんが、全体を通して、このようなテイストの出来事がメインの小説ではありません。
しかし、欠かせない登場人物なのでエントリーさせました。






.jpg)