【バーバー田中のせっちゃん】
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そしてどこからか聞こえる蝉の声。
本書『バーバー田中のせっちゃん-夏休みの村-』は、私自身の幼き日の体験を綴った、ほぼ実話と言える抒情詩です。
物語は、昭和も終わる頃、祖母の訃報を受けた主人公・香菜が、思い出の詰まった村へと向かう場面から始まります。
そこには日常と異世界を分かつ巨大な「青いアーチ橋」があり、その橋を渡れば、時間の流れが違っていた「あの頃」の記憶が鮮やかに蘇ります。
言葉にならない想いを託し、象徴的な小道具の複数配置しました。
祖母が節くれ立ったシミだらけの手で握ってくれた、温かく力強い「味噌おにぎり」。
そして、多くを語らなかった祖父が結婚一周年に祖母へ贈った最初で最後のプレゼント。祖母は、櫛の歯が一本折れても一生大切に使い続けた「赤い南天の実のつげの櫛」。
これらの描写はどうしても入れたかったものです。時間を超えた沈黙の中に流れる深い情愛を表現しました。
農村の風景に突如現れる、薔薇のアーチとサインポールが回るモダンな理髪店。
そこで出会った、不自由な体ながら誰よりも明るく生きた「せっちゃん」との交流では、現代の私たちが置き忘れてきた「心の豊かさ」を問いかけてみました。
単なる懐古趣味に留まらない一冊です。
ページをめくるたび、多くの昭和世代の心にも「あの夏の眩しさ」が蘇ることでしょう。
ぜひ、お手にとって真実の物語に触れてみてください。
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